■ 上下序列のOJTの限界
日本の組織で、人が育ちにくくなっている。上下序列のOJTが機能しなくなってきている。経営環境も組織の年齢構成も変化してきている中で(例えば30代後半の「バブル入社組」はピラミッド組織の中で突出して人数が多いため、部下を持つポジションにつきにくい)、限りあるマネジメントポストに昇格してゆく以外に人が成長してゆけるキャリアパスが必要。また社会的ステータスのある人からしか学ばないという、学習の上下発想を捨てる必要がある。年下、部下、後輩からも大いに自分の成長になるきっかけを得られる。
■ ダイバーシティーの必要性
OJTによる知識の伝承は、会社に閉鎖的ネットワークしかなく、新卒がそのネットワークに同化することを前提にしてきたが、今は新卒も同化を嫌うし中途採用も増えた。「辞令ひとつでどこへでも行きます」を強制する企業では優秀な社員は取り込めなくなってきている。日本企業は強い絆の組織への忠誠を期待するので、育成しても途中で辞めるような人間には投資したくないと考え、出産で辞める可能性のある女性や、中国に進出した場合にも転職しがちな中国人社員には長期の育成コミットメントをしたがらない。
一方でダイバーシティー・マネジメントの重要性は今後高まる。少子高齢化社会において、働き方の多様性は避けられない現実であり、2007年問題やグローバル化への対応も必要。またダイバーシティーは経営判断の質を向上する。同質な人間だけが意思決定にかかわっているとグローバル社会においては経営判断を誤る確率が高くなる。
■ ビジョンなき疲弊からの変革
いま日本の多くの会社は、激しい変化の中でビジネスモデルを変えることなく、目に見える成果だけを求めて第一線を疲弊させている。ビジョンなき疲弊は成長に結びつかない。上司は自分が教える立場になったと感じると自ら学習することはやめてしまい、自分の知らないこと(MBAなど)を勉強しようとする部下を嫌う。しかし実際には時代の変化は激しく、教える立場になったと思ったときから知識の陳腐化が始まっている。古いモデルを変えないまま、中高年が持っている陳腐化したスキルを指導伝承し、労働時間を延長することで目標の達成を迫っても、若手は育つどころかつぶれかねない。例えば顧客の在宅率も低下し、経営環境も変わってきている中で、いつまでもプッシュ型の営業にノルマを課すなどがその例。
会社は組織が社員を疲弊させるだけの古いビジネスモデルから、より健全なモデルに変革を遂げることで、社員の成長を促すチャンスをいちばん多く生み出せる。
■ 人材育成の国際比較
日本のホワイトカラーは先進主要国の中で飛びぬけて自己啓発にお金を投資しない。欧米企業がどれくらい人材育成に時間とお金を投資しているかを、日本の経営トップは知っておくべき。『フォーチュン』の「The 100 Best Companies to Work For」トップ10企業の社員一人あたり年間研修時間は約57時間。それでも自己都合退職率は10%程度あるが、欧米企業は辞める人には教育しない、とは考えない。
■ 人材育成は目標管理できない
人材育成は、目標管理では管理しきれない課題。投資した時間やお金へのリターンはにわかには見えにくい。人の成長とは複雑で微妙なプロセス。教育の最終的な財務リターンは計算できないというのが人材育成に熱心な企業の間ではほぼコンセンサス。
■ ネットワークと良い偶然の重要性
組織の中には業務命令系統としての「表の組織」と、個人の信頼関係による「裏の組織」があり、個人の成長に大きな影響を与え、また個人が周囲の人の成長に影響を与えるのは「裏の組織」。IT(インターネット・イントラネット)の活用による交流には大きな可能性がある。
多様で開放的なネットワークに身を置き、信頼と互報性の概念で、人のために直接の見返りを期待しない行動をとったり、いかなるときも自分なりの見解を持って仕事に臨んだりといった思考・行動特性を持つ人には、計画的でない成長が結果的に可能で、自分のキャリアにとってプラスに作用する偶然が起こりやすい。
逆に、やりたい仕事を職種名で決めてしまって、そこに行き着くためにいま何をやるべきかを逆算して考え、それ以外のことはやらないというのは、せっかくの偶然を得る機会を自ら放棄している。キャリアとは効率的、合目的的なものではない。一見無駄と思われる行動がないと、よいキャリアはできない。
■ 多様な成長のために個人ができること
1. 日々の仕事のやり方や目線を変える: 例えば、日産自動車のエンジニアにとっては移動中の渋滞も気づきがあれば宝の山。一般ドライバーの気持ちを理解する絶好の機会という顧客視点で考えることができる。
2. 自分なりのテーマにこだわって自分で何かを仕掛け、立ち上げる: そこから人脈や社会関係資本(=裏の組織)の構築といった自分の成長を資するものが生まれる。
3. ネットワークに投資する: 例えば社外での講演を引き受けるなど。そこからよい偶然が生まれる(ハプンスタンスアプローチ)。
4. 仕事をプロフェショナル化する: 例えば顧客の半歩先を行って顧客の望んでいるものを自分から提案する、時代の流れを読んで、これから仕事で必要になるであろう能力を獲得する、これから拡大する分野にキャリアを振っておくなど。
5. キャリアチェンジする: 自分のキャリアは自分で切り開く。過去のキャリアを捨てるのではなく、経験を抽象化して普遍化し、新しい組織に必要なものは何かゼロから考える。
6. 働き方や雇用形態を変える: 例えばコンサルタント業で正社員から業務委託への変更、NPO事務局運営とボランティア・パートタイムの組み合わせ、スターバックスのシフトと放送作家の仕事の並行など。
7. ワークとライフを統合する: ワークとライフは相反するものではなく、統合できるものという前提に立つべき。私生活のなかで人間的に成長して仕事に役立て、仕事で成長して私生活を充実させる。沖縄への移住を伴う転職や、家族と一緒に暮らすための転職の例。
■ 健全なキャリア自立概念とは
1. 内的キャリア評価の重視: 昇格や昇給という外部のモノサシではなく、動機や価値観といった自分の内面にある基準でキャリアを評価する。
2. テーマやポリシーの重視: 職種名にこだわるのではなく、テーマとポリシーを持って主体的に今の仕事に臨んでパーソナルブランディングにつなげる。仕事とのマッチングではなく、日々の仕事のプロセスを重視して信頼を得て、自分の働きやすい環境にするチャンスにつなげる。
3. チャンスへの布石を打つこと: いまのような変化の激しい時代に、キャリアを管理、予測、計画することは困難。だから目標を先に決めて逆算するよりは、日ごろの仕事への取り組みを通じたチャンスへの布石が重要。
4. フェーズで考えること: 常に最適な働き方ができるのではない。ワークとライフのバランスや充電と放電、キャリアの拡大と深堀はフェーズで考えて、全体でバランスがとれれば良しとする。今あまりにも仕事中心なら次は生活に比重を置いてワークライフバランスをとるなど。
■ マネジメントスタイル変革の必要性
管理志向のマネジメントスタイルから脱却し、コーチングによる、問いかけるマネジメントが必要。ネスレはマネジメントスタイルを管理型からコーチング型に変革させるために、リーダーシップ開発のプログラムをスタートさせた。3年間で4500人が受講予定。マネジメントスタイルを変革するには十分な費用と時間をかけ、必ず上から手をつける。
■ マネジメントとリーダーシップ
著者はマネジメントを部下を使って課題を達成する能力、リーダーシップは部下でない、命令権限がない人を説得し、納得させ、協力を仰がなければできない課題を達成する能力と定義している。過去の日本企業の管理者はマネジメント能力は高くても、自分の部下でない人を動かす思考・行動特性は十分でない場合が多い。そういう人たちが部門長になると、部下を使って解決できることしかやらず、他部門と関わりあうような問題は権限がないのでできないと放置してしまう。この問題に対処するため、日産はクロスファンクショナルチームをスタートさせた。
■ 育成のための仕組み
部下を使った短期的な目標達成のプレッシャーが課されている上司だけに依存して社員の育成を考えるのは無理な環境が増えてきている。このため、キャリアアドバイザーの設置、部門ラインの人材開発会議による若手育成の検討、日本IBMのようなプロフェッショナル制度やバーニーズのセリング・スーパーバイザーのようなプロがプロを育てる仕組みも必要。上下序列のOJTだけではもう機能しない。