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2008年8月11日 (月)

「本当の幸せと持続可能性を考える」連続講座 第四回メモ

講師: 向山塗料株式会社相談役 向山邦史氏
(枝廣淳子さんとの対談)

参照URL: 五風十雨農場(ごふうじゅううのうじょう)
http://www.eco-phoenix.com/Gofuujyuuu/index.html

向山塗料は山梨県甲府の会社で社員数17人。

以前は毎年2割成長、上場を目指していた。それだと社長の向山さんは社員の尻をたたかなければならないが、そうすると社員が辞めてしまう。辞められるとまた雇わないといけないので求人を出すことになり、新しく人が入ると教育をしなくてはならなくなり、社長は人事担当者のようになってしまった。

このようにもがいて1年半は最悪の状況だった。夜も眠れず、山を見るとどこで死ねるかと考えた。落ち込んでいて活発には動けなかった。どうやって回復したかは覚えていないが、少しづつ回復期に、人との出会いもあり、社員、会社、社会全体の幸せを考えたら、右肩上がりの成長からは離れていった。

海外のこどもは貧しくても幸せだが、日本は逆。「地球村通信」(http://www.chikyumura.org/about/communication/)でブータンのGNH(Gross National Happiness)を見て、見た瞬間にばちっと来た。経営と両立するか?とは思った。

1995年に前年比92%のマイナス成長の事業計画を始めた。大量生産、大量廃棄はダメと言っても、本当に止めている人はいなかった。それで売り上げを下げる計画を考えた。行動しないと、何かしないとと思ったが、倒産しないようにはしないとと思った。

経費を下げれば何とかなると考え、ISO14001を取得した。勉強して苦労して環境や社会を理解することができた。これによって、経費を使わないのは良いことと社員も腹に落ちた。現在は社員の提言で、クーラーも使っていない。営業車も燃料転換して天ぷら油の利用などを行っている。電気も全ての照明から糸を垂らし、独立してつけたり消したりできるようにして、必要なときに必要なだけつける。PDCAのサイクルがまわり、社員が自分で経費を下げるようになったために、あまり矛盾なく動いている。

最初にマイナス成長の事業計画の話をしたときには、社員はしらーっとし、メインバンクの支店長は血迷ったかと思ったと思う。ゆっくり教えてと言われ、長々話した。

発展する方が会社にとっては楽で、売り上げは、上げた方が楽。売り上げを減らせば社員は昇格させられないし、新入社員もとれない。減らすのは嫌なこと。

社員は最初、売り上げを下げる意味が分からなかった。会議でコンセンサスをつくるなど、説明はずっとして徐々に理解されるようになった。でも社員は売り上げを上げたがるし、ライバルが倒産すると売り上げが上がったり、上下しながら11億あった売り上げを8億まで下げた。でも利益は下がっておらず、ベースアップもすればボーナスも払っている。新卒で300万円くらいの給料を払っている。

日本人の12%は収入が200万円以下と言われる。非正規雇用は金儲け競争にはいいが、社会には良くないというのが向山さんの考えで、向山塗料の社員は全員正社員。

今は誰も会社を辞めなくなったので困っている。新しく人を入れる予定は無く、毎年1歳づつ平均年齢が上がってしまう。

売り上げを上げたり、新規開拓はしないが、お客さんへのサービスは徹底的にする。そのためには社員に満足してもらわないと。会社の自己実現は社員の自己実現。社員に実現したいことを書いてもらって社長がフィードバックするなどしている。

マイナス成長の事業計画にしたことで、取引をやめていった会社も3社はあった。いい会社(取引先)でシェアを増やすようにし、取引先を増やす必要は無いのだから、払いの悪い会社は切る。このため貸し倒れにひっかからなくなったことはメリット。

現在はマイナス成長から横ばいの計画にシフトした。

もうからないこと、バカなことをやっていると注目されて新聞社が来る。地元では環境に配慮した会社として有名になった。

マイナス成長のモデルはメリットだらけで、デメリットは考えつかないが、真似する人はいない。何より経営者が楽。山梨の経済は今、最悪だが向山さんの会社は売り上げを達成することができる。しかし確かに、マイナス成長モデルの会社にはISO14001のようなノウハウとか、総合力が必要とはなる。

向山さんの次の取り組みは会社で食料を作るというもの。自給自足会社を目指す。400坪の畑を社員専用農場とし、会社を週3日休みにして農作業を行うことを提案したところ、17人いる社員のうち3人しか賛成しなかったためこの計画は挫折したまま。それでも向山さんは今、農業・林業・畜産業の拠点となる「エコハウス」を作っている(http://5wind10rain.blogspot.com/2008/07/blog-post_22.html)。

エンゲル係数は低い方がいい。0になればお金はいらなくなる。ブータンの人は半日働いて半日遊んでいても貧しくない。ブータンは目標。

最近、経営者が向山さんの話を聞きたがるので、講演依頼は多い。高校や大学でも、のべ300回、2万人の人に話した。講演のたびに、「赤信号でエンジンを切るだけで燃費は1割違う」と話してはいるが、みんななかなかやらない。頭で理解することと行動には距離がある。どうやって伝えれば行動が変わるのか、自分は死ぬほど悩んで気づいたことだから、他人への伝え方は分からない。いい例はあるけど、「自分でやろう」とはまだならないギャップがある。

2008年8月10日 (日)

「本当の幸せと持続可能性を考える」連続講座 第二回メモ

講師: ダグラス・ラミス氏

■パラダイムシフト~「強制労働」
1933年と1968年では社会科学のパラダイムが変化していることが、両年に編纂された百科事典の記述の変化から分かる。

1933年の百科事典ではヨーロッパによる植民地制度と軍事力が動いている様子が記されており、植民地における「強制労働」という項目があるが、これは「お金をあげる」と言っても貨幣経済を持たない熱帯の国の人々は働かないから。森林や川や湖から欲しいものは取れるので、お金はいらず、朝から晩まで8~12時間働くという文化や、欲望を持たない。こういった人を働かせるためには、強制労働しかなかった。

植民地の最初のインフラは強制労働によってできた。強制労働とは一時的な奴隷状態のことで、以下2種類ある。

1. 直接的な強制労働:暴力・銃・鎖などによる強制。このため多くの人がアフリカで亡くなった。病気で死んだというが、おそらくウツで死んだのだろう。

2. 間接的な強制労働:例えば、地元住民に豊かな恵みを与える森林を伐採してしまい、さとうやゴムのプランテーションに変えてしまう。そうすると森からの恵みは受けられないのだから、プランテーションで働くしかない。

ところが、1968年の百科事典では「強制労働」という項目は無くなっている。索引を見ると、わずかにヨーロッパの中世とソ連の項目でこのことばが使われているのみで、1930年代にまだ強制労働が行われていたとはどこにも書いていない。

■発展経済学
これは第二次世界大戦後に、発展経済学が盛り上がり、強制労働について、「熱帯の人たちはヨーロッパの文化に触れて同じものが欲しくなった」という別の物語が生まれたため。強制労働の事実は、大学で発展経済学を勉強しても習わないから学生は知らない。

発展経済学はアメリカの政策の変化により生まれた。トルーマンはアメリカの新政策として、未開発の(under-developed)国を発展させると演説したとき、under-developedということばはまだ辞書には載っていなかった。

■「幸せ」の変化
幸せの概念は様々だが、ヨーロッパの文明を必要としないで暮らしていた人たちの生活には幸せがあったはず。

その後、間接強制労働のシステムができ、その中で幸せが定義されるようになった。例えば、「何が買えたか」が幸せの尺度になるなど。

森林も、海も川も魚を捕る技術も無いなら、現代に生きる私たちも間接強制労働の状況にあるのでは。就職するのが嫌でも、今の構造では他に選択肢が無い。

■戦争でも刑務所でもGNPは上がる
アメリカでは200万人が刑務所にいるが、政府が委託して私企業が刑務所を運営しているところもある。政府が刑務所をやると再教育が目的になるが、私企業が刑務所を運営すると犯罪者がいないと仕事にならないと考えるのでは。

犯罪だけでなく、戦争もGNPを上げる。アフガニスタンのGNPも戦争でうんと上がった。米軍、NGO、NATO軍がアフガニスタンに入ることによって倍になった。アフガニスタンの阿片栽培もGNPを上げている。

日本のGNPにはパチンコや水商売の貢献が大きい。

■Richって何?
資本主義の約束する幸せ、このシステムを動かす原動力となっているのは、「金持ちになること」、「今より金持ちになること」。つまり英語のrichになること。

Oxfordの辞書を見ると、ことばの歴史が書いてある。richということばは、ラテン語のREX=王様から来た。王様の持っている権力は、臣民がいてはじめて成立する。つまり、「この人に従わないと」と思っている人がいないといけない。だからみんな王様にはなれない。王様は一人だけで、不平等を前提としている。

時代が進むとお金の力で人を支配するようになったが、poorな人がいないとrichにはなれない。richになりたければ、周りの人よりお金をもうけるか、周りの人を自分より貧しくする。つまり、経済発展が進めば進むほど、「みんな幸せ」は無理になる。

■Richの恐怖
Richになる幸せは、人を支配できる権力の楽しみ。だからその裏には、「このステータスを失ったらどうなるか?」、「復讐されたらどうしよう」という恐怖がある。連帯から生まれる幸せとは、だいぶ違う。

不平等から生まれる不幸せは、経済成長では解決しない。

金持ちは恐怖を感じている。自殺したり、危ない立場にいる。賃金労働者は上司に侮辱されても言うことをきかないといけない不幸せがある。100円ショップのものはかなり貧しい人が作っている。中国のどこかで、5円とか7円とかで100円のメガネをつくっている。

■貧困の近代化
経済学者のイワン・イリッチは、「貧困の近代化」ということを言った。近代化は貧困を無くすイメージだが、このことばには、貧困を合理化して搾取可能な貧困を作り出すという意味がある。

貨幣経済・消費文化・賃金労働のシステムの中に組み込まれていない人は貧しくても搾取することができない。システムの中に取り込まれた貧困を作らないと、システムが上手く行かない。

■幸せの追求
幸せそのものは、追求できない。
追求するなら麻薬をするとか。すぐhappyになれる。

happyのhapは「運」で、haplessというのは「運が悪い」という意味。
happenは「何かが起こる」という意味で、自分が何かするのではない、自分でコントロールできないことを言う。

追求するのは幸せではなく、もっと具体的なこと。例えばこどもを育てるとか、ピアノを弾けるようになるとか、旅行をしたいとか、何かの技術をマスターしたいとか。上手く行けば成長したり、知識が増えたり、それでhappyになれるかもしれないが、でもそうでもないかもしれない。

■人間の矛盾
知ると苦しい、憂鬱な、unhappyになるけど、それでも知った方がいいことはある。これが人間の矛盾。

不思議なことに、大学で教えることは知らない方が幸せなことも多い。例えば搾取、地球温暖化、種の絶滅、戦争。でも苦しいものを知る喜びもある。事実は生き生きとしている。

■古代ギリシャのhappy
古代ギリシャのhappyは、私たちとは違う。狂いそうに人を愛している、情熱的に嬉しい、極端に悲しい、大失敗して眠れない、その両方を同じことばで表現した。

現実、真実を体全体で感じて生きている。苦しいときは早く終わってほしいけど、一生忘れない。あのとき私は生きていたと思える。

「真の幸せとは?」という議論を複雑にできたら、ダグラス・ラミスさんは満足。

「本当の幸せと持続可能性を考える」連続講座 第一回メモ

(「本当の幸せと持続可能性を考える」連続講座は、2008年6月の薔薇棘講師の枝廣淳子さんにご紹介いただいた。)

講師: 明治学院大学国際学部教授 辻信一氏

これまで、経済成長という目標のためには環境はどうでも良かった。日本経済は奇跡と言われる経済成長を遂げたが、達成された「豊かさ」はどんなものだったのか。果たしてこの世は幸せな場所か。GNPを何倍かにして、何倍か幸せになったのか。

これまでGNP/GDPを豊かさを測る尺度にしてきたけれど、「何のためにこんなに働いているの?」という疑問は社会のどこかのレベルには、これまでもあったはず。

1968年に暗殺された次期大統領候補であったロバート・ケネディはその演説で、健康、教育、誠実さ、機知、勇気、知識、慈悲深さはGNPには入っていない、GNPという概念からは、生きがいの全て(=幸せ)がすっぽりと抜け落ちている、と言っていた。

1970年代には、経済顧問としてビルマに赴いた経済学者のシューマッハは、ビルマの人々の素朴な暮らしぶりに感銘を受け、自分がアドバイスできることは何も無いとして、仏教経済学を唱えて「Small is Beautiful」を著した。

1972年に即位した16才のブータン国王は、GNPに変わる豊かさの尺度として、GNH - Gross National Happinessを言い出した。GNHの4つの柱は、

1. 自然・生態系の豊かさ(森、水、土、空気)
2. 伝統文化の豊かさ(チベット仏教、シャーマニズム、コミュニティー、助け合う心)
3. 公正な経済発展(不公平じゃなくて)
4. 良い政治(民主主義、国民の政治参加)

上記4つの尺度で考えてみると、日本では富山や新潟など、GNPの低い地域でGNHが高いかもしれない。東京はどれくらいの位置づけになるのか。

これまで、

1. 豊かな国は貧しい国より幸せ
2. 同じ国の中では金持ちの方が貧乏な人より幸せ
3. 金持ちになるほど幸せ

と思われてきたが、これらは間違っていることが学問的に明らかになってきた。先進国では欲望の増大が社会の荒廃を生んでいる。アメリカでは、金持ちの抱えるトラウマを解決してあげることが、お金の儲かるビジネスとして成立する。金持ちであるということは、人間にとってすごいストレス。

ビル・マッキベンの「ディープ・エコノミー」では、経済成長の3つの難題として、

1. 政治的問題(経済成長は繁栄より不平等、進歩より不安定を生んでいる)
2. エネルギーの枯渇と環境汚染
3. 経済成長が幸福をもたらしていない

ことを指摘している。これら3つは複雑にからみあっている。豊かさと幸せが背を向け合う時代になってしまった。何十年か前は豊かさが幸せだった。

産業革命前の4千年には、40年で1%くらいの経済成長で、それだとほとんど実感することはできないので、経済成長という概念は存在しなかった。

産業革命のきっかけとなった化石燃料が発見されたことで、人類はそれまでの100倍の力とスピードを手に入れた。さらに経済成長という概念が発明されると、成長は100倍加速し、40年で100%を達成するようになった。

石油を燃やしたときの熱量は、それまでのバイオマスに比べると100倍。現在の世の中のしくみは、100倍になった力と、石油は安くて永久に続くという幻想を前提として作られている。

この幻想がはじける前に、小さく幻想を壊してゆくことが必要。モデルをいろいろなところに作ってゆく。そうしたら、幻想がはじけたときにも希望が持てるし、「ほらー、お父さん本当はこっちじゃないかと思ってたんだ・・・」と言える。

ロハス、カルチャー・クリエイティブといったことばがあるが、アメリカで行った10万人の意識調査では、アメリカの人口の1/3は近代的な価値観の外で生きている、新しい文化をつくる人々であることが明らかになった。

環境問題は文化の問題。何が美しいか、おいしいか、幸せか、安らぎか。日本にもそういう流れはある。今の大学生は、現代の大人の社会を見て、「人生こんなものじゃない」と直観で分かっている。

ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットで、その問題を解決することはできないとアインシュタインは言った。成長そのもの、豊かさという幻想を超えてゆかなければならない。心の大転換が必要。

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